この記事の要点(先に結論)
- 特殊清掃とは、通常の清掃では取り除けない汚れやにおいが残った室内を、専用の薬剤や機材で原状に近づける作業の総称です。法令上の定義がある資格制度ではなく、関連資格はいずれも民間資格です。
- 警察庁の統計では、令和6年中に警察が取り扱った死体204,184体のうち、自宅で亡くなった一人暮らしの人は76,020人(37.2%)、うち65歳以上は58,044人でした。誰にとっても身近な問題になりつつあります。
- 特殊清掃の費用について、公的機関が公表している相場統計はありません。金額は状況によって大きく変わるため、必ず現地を見てもらったうえで書面の見積もりを取ることが重要です。
- 賃貸物件では、国土交通省のガイドラインにより、特殊清掃が行われた場合は原則として次の入居者へ告げることとされています。相続放棄をしても、放棄時に現に占有していた財産には保存義務が残る点にも注意が必要です。
大切な方を突然亡くされたあと、あるいは管理する物件で予期せぬ事態が起きたあと、「特殊清掃」という言葉を初めて知る方は少なくありません。慣れない手続きと感情の整理が同時に押し寄せる、非常に負担の大きい場面です。
この記事では、特殊清掃について公的な情報で確認できる範囲を、できるだけ落ち着いて整理します。どなたの落ち度でもない出来事として、必要な判断ができるようお手伝いできれば幸いです。
特殊清掃とは?通常の清掃やハウスクリーニングと何が違う?
特殊清掃とは、人が亡くなった居室や、長期間にわたって清掃が行き届かなかった住居などで、通常の清掃では対応できない汚れ・におい・衛生上の問題に対処する作業を指します。
一般的なハウスクリーニングが「表面をきれいにする」ことを目的とするのに対し、特殊清掃では汚染された部分の撤去、消毒・除菌、消臭、害虫の駆除までを一連の作業として行うのが特徴です。市販されていない薬剤や機材を使用する場面もあります。
押さえておきたいのは、「特殊清掃」は法令で定義された業種名ではないという点です。独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するJ-Net21の業種別開業ガイドでは、特殊清掃業を「清掃業の一形態」と位置づけています。関連する民間資格はありますが、国家資格ではありません。
一方で、行政の文書に登場しない言葉でもありません。国土交通省が不動産取引について定めたガイドラインでは、「いわゆる特殊清掃」という表現が実際に使われています(後述)。
特殊清掃に必要となる許可は?
作業の内容によって、関係する許可が変わります。
遺品や家財を廃棄物として運び出す場合、家庭から出る廃棄物は原則として一般廃棄物にあたり、これを業として収集運搬するには市町村長の許可(一般廃棄物収集運搬業の許可)、または市町村からの委託が必要です。
この点については、総務省行政評価局が令和2年3月に「遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査結果報告書」を公表し、許可を取得していない事業者の取り扱いの実態を調査しています。作業内容に応じて、古物商許可(買い取りを行う場合)や建設業の許可(内装の工事を伴う場合)が関係することもあります。
なぜ特殊清掃が必要になるの?
背景のひとつに、一人暮らしのまま自宅で亡くなる方が少なくないという実情があります。
警察庁は令和7年4月、令和6年中の統計を公表しました。
項目 | 令和6年中 |
|---|---|
警察が取り扱った死体(総数) | 204,184体 |
うち自宅において死亡した一人暮らしの者 | 76,020人(37.2%) |
うち65歳以上 | 58,044人 |
出典:警察庁「令和6年中における警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者について」
警察庁はこの統計を、年齢階層別および死後の経過日数別に区分して公表しています。発見までに時間がかかった場合、室内の状況によって特殊清掃が必要になることがあります。
これは、亡くなった方やご家族に落ち度があったということではありません。単身世帯が増え、暮らし方が多様になるなかで、誰にでも起こり得ることとして捉えられています。
特殊清掃ではどんな作業をするの?
事業者によって手順や名称は異なりますが、一般的には次のような工程で進みます。
工程 | 主な内容 |
|---|---|
状況の確認・見積もり | 現地で汚損の範囲、におい、害虫の発生状況などを確認し、作業範囲と費用を提示 |
初期消毒・害虫対策 | 作業前に衛生状態を整え、害虫が発生している場合は駆除を行う |
汚染物の撤去 | 汚れが染み込んだ寝具・カーペット・畳などを撤去し、廃棄物として適正に処理 |
洗浄・除菌 | 床、壁、設備などを専用の薬剤で洗浄・除菌 |
消臭 | 残ったにおいに対して消臭処理を行う |
必要に応じた復旧工事 | 床材の下や建材まで影響が及んでいる場合、張り替えなどの工事を検討 |
ここで大切なのは、すべてが清掃で解決するとは限らないということです。汚れやにおいが床下や建材まで達している場合、室内の清掃だけでは取り切れず、内装の張り替えなどの工事が必要になることがあります。見積もりの段階で「どこまでが清掃で、どこからが工事か」を確認しておくと、後の食い違いを防げます。
特殊清掃の費用はどれくらいかかる?
はっきりお伝えしておきたいことがあります。特殊清掃の費用について、公的機関が公表している相場統計は確認できません。 事業者ごとに料金体系も算定の基準も異なるため、「相場はいくら」と一律に示すことは適切ではありません。
そのうえで、費用が大きく変わる要因としては、次のようなものが挙げられます。
- 汚損の範囲と程度(発見までの経過時間の影響が大きいとされます)
- 部屋の広さ、間取り、階数やエレベーターの有無などの作業条件
- 撤去する家財の量
- 害虫駆除や消臭処理の必要性
- 内装の復旧工事を伴うかどうか
こうした条件は現地を見なければ判断できません。電話やメールだけで確定金額を提示する事業者には慎重になったほうがよい、というのが実務上の考え方です。複数社に現地を見てもらい、作業範囲・単価・追加料金の条件が書かれた見積書を比較してください。
特殊清掃の費用は誰が負担するの?
状況によって整理が必要です。
賃貸物件の原状回復については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」が基本的な考え方を示しています。同ガイドラインでは、経年変化および通常の使用による損耗等の修繕費用は賃貸人(貸主)の負担、賃借人(借主)の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗等は賃借人の負担とされています。
ただし、このガイドラインは賃貸住宅の原状回復全般についての考え方を示したものです。個別の事案でどの費目を誰が負担するかは、契約内容や事情によって結論が変わり得ます。金額が大きくなる場合や、貸主・管理会社との間で見解が分かれる場合は、早い段階で弁護士や消費生活センターに相談することをおすすめします。
相続放棄をすれば関係なくなる?
「相続放棄をすれば一切関わらなくてよい」と考えられがちですが、注意点があります。
令和5年4月1日に施行された改正民法により、相続放棄をした者の義務は「管理義務」から「保存義務」として整理されました。改正後の民法第940条第1項では、相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならないとされています。
改正により、放棄の時点で現に占有していない財産については、この義務を負わないことが明確になりました。とはいえ、実際にどう当てはまるかは事案によって異なります。また、賃貸借契約の連帯保証人としての立場は相続とは別の契約に基づくものである点にも留意が必要です。相続放棄を検討する場合は、財産に手を付ける前に専門家へ相談してください。
特殊清掃をした部屋は、次の入居者に伝える必要がある?
不動産取引における取り扱いは、国土交通省が令和3年10月に策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」に整理されています。
死の種類 | 賃貸取引での取り扱いの目安 |
|---|---|
老衰・病死などのいわゆる自然死 | 原則として告げなくてよい |
日常生活の中での不慮の死(転倒事故、誤嚥など) | 原則として告げなくてよい |
上記のうち、長期間放置されたことに伴い特殊清掃等が行われた場合 | 原則として告げる。発覚から概ね3年を経過した後は、原則として告げなくてよい |
告げる場合の内容は、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合はその発覚時期)、場所、死因、および特殊清掃等が行われた旨とされています。
なお、この「概ね3年」という期間の目安は賃貸借取引について示されたものであり、売買取引には同様の期間の定めが置かれていません。個別の判断については、取引を担当する宅地建物取引業者にご確認ください。
依頼先はどう選べばいい?
遺品整理や特殊清掃をめぐっては、消費者トラブルも報告されています。国民生活センターは平成30年7月19日、「こんなはずじゃなかった!遺品整理サービスでの契約トラブル」を公表し、次のような事例を挙げています。
- 見積もりの際にせかされて契約したが、作業が始まらないので解約したい
- 解約を申し出たら高額なキャンセル料を請求された
- 作業時に予定外の料金を請求され、最終的に見積金額の2倍の費用を請求された
- 処分しないよう頼んでおいた物を勝手に処分された
同センターは、複数社から見積もりを取ること、見積書の内容を十分に確認すること、キャンセル料の発生時期と金額をあらかじめ確認すること、残す遺品と処分する遺品を明確に分けておくことを助言しています。トラブルになった場合は、消費者ホットライン「188」に相談できます。
依頼前に確認しておきたい項目を整理すると、次のようになります。
確認項目 | 見るべきポイント |
|---|---|
許可 | 廃棄物の運搬を伴う場合、市区町村の一般廃棄物収集運搬業の許可または委託があるか |
見積もり | 現地を見たうえで、作業範囲と内訳が書面で示されているか |
追加料金 | どんな場合にいくら加算されるか、事前に説明があるか |
キャンセル条件 | いつから、いくらのキャンセル料が発生するか |
残す物の扱い | 探してほしい物、残す物をどう共有し、記録するか |
復旧工事 | 清掃で対応する範囲と、工事が必要な範囲の線引き |
私たち株式会社Next Earth(埼玉県坂戸市)は、「Re-Earth/地球と共に、未来をつくる」という理念のもと、不用品回収・買取・遺品整理/生前整理を行っています。ご遺族やご関係者のお気持ちに配慮しながら、家財の仕分けから搬出、まだ使えるものの買い取りまで一貫してご相談いただけます。現地でのお見積もりは無料です。何から手をつけてよいか分からない段階でも構いませんので、まずは状況をお聞かせください。
作業範囲によっては、専門の事業者や工事業者と連携したほうが適切な場合もあります。その際は率直にお伝えします。
よくある質問(FAQ)
Q. 特殊清掃は自分でできますか? A. おすすめできません。衛生上のリスクがあるほか、においの原因が建材の内部まで達している場合は、表面の清掃では改善しないことが多いためです。また、運び出す家財が廃棄物にあたる場合、その収集運搬には許可が必要になります。ご自身で判断する前に、一度専門の事業者に現地を見てもらってください。
Q. 特殊清掃の費用はいくらぐらいですか? A. 公的機関が公表している相場統計はありません。汚損の範囲、部屋の広さ、家財の量、復旧工事の要否などで金額は大きく変わります。インターネット上の「相場」を鵜呑みにせず、必ず現地確認のうえ書面の見積もりを取り、複数社で比較してください。
Q. 遺品整理と特殊清掃は同じものですか? A. 別のものです。遺品整理は残された家財や思い出の品を仕分け・整理する作業、特殊清掃は室内の汚れやにおいへの対処です。実際には両方が必要になる場面が多く、あわせて相談できる事業者もあります。
Q. 大家です。入居者が亡くなった部屋の費用は誰に請求できますか? A. 契約内容や状況によって異なるため、一律には言えません。国土交通省のガイドラインでは、経年変化や通常損耗の修繕は貸主負担、借主の故意・過失や善管注意義務違反による損耗は借主負担という考え方が示されています。相続人の有無や相続放棄の状況も関係するため、金額が大きくなる場合は弁護士にご相談ください。
Q. 相続放棄をすれば、部屋の片付けをしなくてよいですか? A. 一概には言えません。改正民法第940条では、放棄の時に相続財産を現に占有している場合には、引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存する義務があるとされています。また、財産の処分にあたる行為をすると相続を承認したとみなされるおそれもあります。片付けに着手する前に、弁護士や司法書士にご相談ください。
Q. 特殊清掃をしたことは、次の入居者に必ず伝えなければいけませんか? A. 国土交通省のガイドラインでは、いわゆる自然死であっても、長期間放置されたことに伴い特殊清掃等が行われた場合は、原則として告げることとされています。賃貸借取引では発覚から概ね3年を経過した後は原則として告げなくてよいとされていますが、判断は個別の事情によります。取引を担当する宅地建物取引業者にご確認ください。
まとめ
特殊清掃は、多くの方にとって人生で一度あるかどうかの出来事です。だからこそ、慌てて決めてしまいやすい場面でもあります。
押さえておきたいのは、費用に公的な相場はないこと、現地確認と書面の見積もりが欠かせないこと、廃棄物の運搬には許可が必要なこと、そして相続放棄や告知義務には法律上の注意点があることの4点です。判断に迷ったら、消費生活センターや弁護士など、利害関係のない相談先を頼ってください。
そして何より、こうした事態はご本人にもご家族にも落ち度のない出来事です。ご自身を責めることなく、必要な手当てを一つずつ進めていただければと思います。
出典・参考
- 警察庁「令和6年中における警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者について」
- 警察庁「死体取扱状況」
- 国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」
- 国土交通省「『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』について」
- 総務省行政評価局「遺品整理のサービスをめぐる現状に関する調査結果報告書」(令和2年3月)
- 国民生活センター「こんなはずじゃなかった!遺品整理サービスでの契約トラブル」
- 法務省「民法・不動産登記法部会資料(財産管理制度の見直し)」
- e-Gov法令検索「民法」
- J-Net21(独立行政法人中小企業基盤整備機構)業種別開業ガイド「特殊清掃業」
- 株式会社Next Earth 公式サイト
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものです。法律の適用や費用負担の判断は個別の事情により異なります。実際のご対応にあたっては、弁護士・司法書士・宅地建物取引業者・消費生活センターなど、それぞれの専門家にご相談ください。
